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福岡市西部の住宅街に計画した、鉄骨造の地階1階+地上2階建の住宅。クライアントが購入した土地は1000㎡を超える変形した崖地であった。最初に訪れた時は草が生い茂っており、本当にここに住宅を計画することができるのか、と思えるほどの、まるで森の中のような状態であった。敷地図と国土地理院の地図などから敷地の高低差を模型にしてみると、上段にはそれなりの平地があるようだったが、全く想像がつかなかったため、まずは敷地の1/2程度を草刈りすることにした。そうすると、想像以上の広がりが感じられ、また、敷地の北東には、福岡タワーや百道の絶景を見渡せることがわかった。
現地で心惹かれたのは、敷地の「平らな部分」だけではなく「崖地」といえる、斜面の方でもあった。敷地が山の麓にあることもあり、崖地を降りたり上がったりする体験は心地よいものであった。少し降りると眼前には池があり、とてもプライベートな印象であるが、上ってみると、遠くに百道地区の絶景を望む開放的な場所が広がっており、上下することで全く違った景色が展開していた。この体験から、マウンテンパス(山径の小道)を駆け上がるような体験を内包した、住宅の中を上下に行き来するだけで、さまざまな場面が展開するような住宅が設計できないだろうかと考えることとなった。方向性が決まり、敷地の中で、マウンテンパスをイメージした様々な円弧の連続をスタディした結果、全てを半径60M程度の曲線の集合として、それぞれの円弧が接線を共有しながらさまざまな方向に連続的に展開していく案がよいことが分かった。
1階は住宅へのエントランスと駐車場のスペースに、環境が安定した地下階には水回りと個室群を、開放的な2階にはリビングスペースを計画した。1、2階の内装は明るく白く、開放的な印象に。対照的に、地下階はブラウン系の内装やR天井とした洞窟のイメージで、プライベートな印象に仕上げている。当初は、階ごとに個別の曲率で曲がったラインを設計していたが、建物内で上下するだけでさまざまな体験が享受できる土地柄、できるだけ要素を絞り、全て同じ曲率、同じ幅で地下から2階までデザインする方がよいと判断した。そのほうが一層、それぞれの階での固有の体験の違いを炙り出すことができると考えたからである。そして、2階のリビングの先のガラス面は、福岡タワーに正対し、その空間の接線がまっすぐ百道の景観に向かうように接線を固定することで、この住宅のデザインは完成している。また、マウンテンパスを駆け上がっていく体験を強調するように、1〜2階の階段もコンクリートで打設し、できるだけ体験が地形的になるように配慮した。