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クライアントである家族は、もともとこの場所にあった木造2階建ての住宅に居住。季節や時間によって変化する太陽や月の位置、陽の光の長さなどに合わせて家事を行ったり居場所を変えたりと、自然や外部環境を楽しみながら生活していた。増築と改造が繰り返された住宅から、生活を主体的に楽しんでいる様子を十分に想像することができた。
計画を進める中で予想以上に地下水位が高いことがわかり、また、2台分の駐車スペースを確保するなどの条件もあり、2階部分を生活の中心として設計することとなった。構造は経済性・強度・壁厚を考慮し、鉄骨ブレース構造(柱梁で囲まれた部分に「×」状に設置する斜材に水平力を負担させることで、柱の断面を比較的小さく設定できる)とした。
そのようにして決定した基本的な住宅の外形に、家族の身体感覚と照らし合わせながら、外部環境を取り入れるための開口部を設置した。この住宅には西に面して3階に続く大きな窓がある。通常、大きな開口部を西側に設けることは避けられるのだが、西側に景色が開けていることと、安定的した外光を取り入れることができることから、クライアントからの強い要望で西側に大きな窓を設けた。強い西日を避けたいときは、バルコニーの外側に設置したテント生地のカーテンを閉められるようになっている。また、南側には民家が迫っているため大きな開口部を設置できなかったが、窓から飛行機を眺めていた日常が続くように、南側には上部にのみ開口部を設け、空を望めるようにした。
設計者が独自に設計するルールよりも、長い間この場所に暮らすことで培われた家族の身体感覚が、住宅の重要な意匠になると考えて設計した住宅である。