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ダンボール製のスツール|九州工業大学|非常勤講師

今年の春より九州工業大学工学部建設社会工学科に非常勤講師として通っている。この学科は本来土木を軸足とするところだが、2009年に学科内に建築学コースが新設されている。3年生に進級する際に「土木系」に進むか、それとも「建築系」に進むかを選択するのだが、1~2年生までの間は、その後の進路選択に関わらず、全学生が土木系の授業だけでなく建築系の授業も選択することが必須となっている。前期の授業で担当したのは2年生の課題。7週間かけてダンボールを材料として「子供のためのスツール(椅子)」をつくるという課題だ。7月19日(火)がその授業の最終回だった。

この課題の特徴
この「ダンボール製のスツールを製作する」課題には、大きな特徴が2つある。ひとつは、最終的な作品をつくるための材料の大きさが決まっていること。ふたつめは、授業の最終回に、製作したスツールを大学に隣接する保育園に持ち込み、子供たちに実際に使ってもらうこと、である。
最終的に学校から支給されるダンボールは、「幅900mm×高さ1800mm×厚さ5.0mm」のシート状のダンボール1枚である。この「使用出来る材料のサイズが決まっていること」は、大きな設計条件である。無限に材料が使える場合は、「こんな椅子をつくりたい!」と「やりたいこと」を先に決めてしまい、大きさや強度、接合部をどうするかなどは、その後に考えることができる。しかし、「材料の上限」という設定があるだけで、自分たちの「やりたいこと(何をつくるか?)」と同時に、「実現可能性(どのようにしてつくるか?)」ということを並行して考えなければならない。また、最終的に子供たちに実際に使ってもらって反応をダイレクトに体験することになるため、必然的に「つかい手」を想定した設計を意識させられる。これはとても実務的な課題なのである。そこで、週に一回の講評の度に「なぜそのような案になったのか?」、「どれくらいの大きさになるか?」、「どのようにして強度を出すのか?」と、事務所で検討をする際にスタッフに投げかける時と同じような質問を投げかけた。7週間を経て最終的にできあがったものは、椅子の造形への問題意識から出発したもの、ダンボールという素材特性に着目したもの、課題のエンドユーザーである子供の身体寸法や興味に着目したものなど、学生たちの問題意識や思考の始まりは様々だった。

学生たちと子供たちの反応
「子供たちに体験してもらう」という試みは、昨年からはじまったものだ。園児たちと大学生たちが親しくなるのに時間がかかったという昨年の教訓を活かして、今年は始めにみんなでお遊戯の時間をもった。担当の徳田先生やボクら非常勤講師もいっしょに(笑)。その甲斐あってか、子供たちのダイレクトな反応をすぐに感じることができた。何か生き物や乗り物をモチーフにした造形は、文句なしに人気がある(笑)。でも少し時間が経つと、誰かと一緒に座ることが出来たり、みんなで遊ぶことができたり、自分以外の誰かと体験を共有できるようなものに子供たちが集まっていたり、子供たちなりに遊び方や使い方を開発していて、その振る舞いからモノをつくることの根源的な楽しさを教えてもらっているような気がした。学生たちの反応は、「うまくいった!」と思っている人、また、「こんなはずじゃなかった…」と思っている人(笑)、表情は様々あったが、子供たちのダイレクトな反応から学んだことがたくさんあったのではないだろうか。

講評の意味と意義
学校の課題や、実施を前提とした設計競技やアイデアを競う設計競技(コンペ)、賞レースなどの意義は、評価が良いか悪いかそれ自体ではなく、評価を受けることで「自分の現在地を確認できること」ではないだろうか。あーでもない、こーでもない、と悩みながら一生懸命考えて、今、自分が「これが一番よい状態ではないか!」と思ってカタチにしたものが、どのように評価されたか。設計やデザインは「ナマモノ」みたいなものなので、うまく行く場合もあれば、行かない場合も当然ある(ボクらだってそうです、笑)。だから、結果に一喜一憂するだけでなく、その評価を自分なりに解釈して、更新して、これからの糧にしてもらえたらと思う。