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DESIGNTIDE TOKYO 2010 / E&Y / HORIZONTAL

DESIGNTIDE TOKYO 2010
今年も「DESIGNTIDE/デザインタイド」に訪れた。デザインタイドは、ボクたちが企画しているデザイニングと同様に、2005年から始まり、今年で6回目の開催となるデザインイベントである(運営体制は3年前に更新されている)。タイドのディレクター陣とのつながりも深く、毎年開催されるのを楽しみにしている。ボクたちが主宰しているデザイニングは、福岡ローカルでのデザインイベントであり、デザインを媒介としてまちや建築の良さや楽しみ方を伝えることを目的としている。一方デザインタイドは、東京ローカルでのデザインイベントであり、デザインや思考をトレードすることを目指したイベントである。全てのデザイナーに開かれたフラットな発表の場であり、このような場が「TOKYO」と言う場所にあること自体がとても意義があることだと思う(1デザインイベントの主宰者として、その苦労は容易に想像できます)。デザイニングが自主メディア/媒体としての側面を突き詰めようとしていることに対し、デザインタイドはトレードショー/見本市としての側面を突き詰めようとしている。地域が変われば、イベントの担う役割も変わって当然だし、目的やカタチは違っても、「現状をより良くしたい」という根っこの部分を共有している。と、思う。そんなデザインイベントがたくさんあることは、本当に勇気づけられる。一昨年からメイン会場をミッドタウンホールに設置するようになり、今年の会場デザインは建築家の中村竜治さんが担当されていた(昨年・一昨年は谷尻誠さんが会場デザインを担当)。「トレードショー/見本市」という場所の背景として、とても素晴らしいものだった。

edition HORIZONTAL
今回デザインタイドを訪れた目的のひとつは、家具レーベル「E&Y/イー・アンド・ワイ」が新しく発表したコレクション「edition HORIZONTAL/エディション・ホリゾンタル」を、自分の目で確かめることだった。CASE-REAL/二俣さん14sd/林くん(デザイニングの共同主宰者のひとりでもある)など、近しい人がデザイナーとして起用されていたし、E&Yを率いる松澤さん(デザインタイドのディレクターでもある)には、デザイニングでもとてもお世話になっていて、彼がコレクションを通してどんなことをメッセージとして伝えてくるか、とても楽しみにしていた。
実際にコレクションを見た感想を先に書くと、これまで1ブランドの新作発表で、このような驚きを覚えたことは少ないかもしれない。

家具がない家具のコレクション
では、何に驚いたのか。
まずひとつめは、家具の開発をする会社の新しいコレクションなのに、家具的なものが1つも無いこと。このモノがなかなか売れない時代に、新しいコレクションを発表することはとても大変なことだ。しかも、これまでファニチャーレーベルとして「家具」を作ってきた会社が、新しいコレクションで、いわゆる家具的なものを開発していないこと自体が可笑しなはなしである。松澤さんが「明確な機能がある訳ではないから、それがなくても生活に困ることはないけれど、あると少しだけ生活を豊かにしてくれたり、新しい気付きを与えてくれるものをつくりたかった」と説明し、それを「multiple / マルチプル」と呼んでいるように、今回発表されたものは、文字通り「モノ」だった。明確な用途や機能はなく、マックス・ラムがつくったイスのようなものが唯一家具のようなもので、それ以外は二俣さんの最小限の素材と手数でつくったモビールや、林くんの香りを含浸させたタバコの包み紙のような燃え方をする紙、鈴木元さんの森で拾った枝を型にしてつくったクレヨンなど、もはや家具的ですらなかった。家具レーベルのコレクションなのに家具がない状態は、それ自体が時代への批評性を含んでいる。

キュレーションの精度
次に、このコレクションにデザイナーとして起用された人たちの、一番その人らしい部分がプロダクトになっていること。このコレクションの開発には、2年以上の時間が費やされている。その間、このキュレーション作業を松澤さんがほぼ一人でこなしているのだが、起用された6名はデザイナーからアーティストまで、それぞれが強烈な個性を持った人たちである。その開発作業はまったく違うアプローチが必要になるはずだけれど、間違いなくそれぞのデザイナーの背骨の部分(一番その人らしい部分)が引き出されてプロダクトになっている。デザイナーたちからも「自分ひとりでは、ここまでの精度で完成させることはできなかったかもしれない」という言葉が聞こえるほどで、この作業のタフさ(大変さ)は、想像するに容易い。

事件にしなかったことが事件である
最後に、一番驚いたことは、今まで4年間これを事件にしなかったこと。E&Yという企業は、間違いなく80年代以降の世界のデザインを耕してきた家具レーベルのひとつであり、そのE&Yを2006年から松澤さんが率いている。誤解を恐れずにいうと、この「HORIZONTAL」は、それまで一般的に「E&Y」というブランドが連想させてきたものや、先代の社長が作り上げてきたイメージを刷新したものであり、「現在」のE&Yそのものである。企業の代表が変わると企業自身がそれを事件にしようとするし(某自動車ブランドなどのように)、メディアも事件として伝えることが多いように思う。しかし、E&Yは4年もの間、それを事件にしなかった。ように見えた。ひとつリアルなものが提示された瞬間に、それまでの状況がガラッと変わって見える。その「もの」が提示されるまで誰も気付かなかったけど、振り返ってみると変化のカケラはたくさんあって、それまでにつくっていたものさえも全く違うものにみえてしまう。大きな変化ではないけど、小さな変化が繰り返されて、気がついたときにはとても大きな変化になっている、そんな感覚だった。
このコレクションは間違いなく「これからの新しい価値」になり得るものだし、E&Yという企業の軸足になるのだろうと思う。これから彼らが発表するものはこの「HORIZONTAL」という価値の延長線上に置かれることになるので、明確な用途や機能をもったものでさえも、まったく違った景色に見えるかもしれない。そんな、新しい気付きを与えてくれる、とてもドキドキするような体験だった。