「日本発」の情報を意識して編集される建築雑誌「JA」の82号(3.11以後、初めて発刊される号)にて、震災の復興支援を担うような、建築や都市についての提言をまとめる特集号が企画された。「オルタナティブたり得る魅力的な都市空間のアイディアのアーカイブをつくること」を目指して「新しい都市のアイデア」の提案が求められ、指名された45歳以下の建築家50名が提言を行っている。この号で私たちは、燃えない紙で「KARTE|カルテ」をつくった。3.11以降、様々な方々との議論を通して、「震災後の復興に対し、もしも何か設計や計画の支援が必要になるのだとしたら、そこに暮らす人びとの夢や希望から出発したい」と、考えていた。そのために、被災された人びとの具体的な声や意見を記録するためのノートを提案した。本号を読み進めるにあたって、以下のような3つ視点で全ての案を、自分たちなりに解釈してみた。この3点は、私たちが提案を行うにあたり、特に考慮した点でもある。
1. 3.11の震災に言及した提言であるか?
建築雑誌「JA」は、日本の情報を海外へ届けることを目的として発刊されている雑誌だ。そのため、テキストは全てバイリンガルで表記され、英文が先、和文が後という構成になっている。震災後初めて発刊される82号は、巻頭のエディトリアルにて新建築社の橋本氏が語ったように、「オルタナティブたり得る魅力的な都市空間のアイディアのアーカイブをつくること」が目標とされた号である。しかも、震災後にはじめて発刊される号であり、「日本の都市空間2011」という表題がつけられる。震災後に海外に向けて発刊される紙媒体で、日本の建築家の都市への提言が記録される。それならばしっかりと今回の震災について「何が問題だと捉えたのか?」という問いに対して、しっかりと見解を述べ、ひとつの視点を提示したいと考えていた。
2. 提言の出発地点を知ることができるか?
言いかえると、「なぜ、そのような提言が必要だと考えたか?」を知ることができるか、である。私たちの仕事は、「ゼロ」から「イチ」をつくる機会はほどんどない。既につくられたまちの中で新しく仕事を始めるため、どのような視点や解像度でまちや世界を読み解くか、 その 「翻訳の精度」とでもいうべき能力が、でき上がる建築の質を大きく左右する。既存の国土や地域をどのように読み解いたか、また、読み解こうとしているかがわかること。その表現が必要だと考えた理由を、考えの出発地点として示し、誰もが検証可能な状態にしておくことは、とても大切だと感じている。3. 構築的な議論を進めるための「第一歩」となり得るか?
今回の企画は、提案依頼から最終提出までの期間が3週間程であり、その状況の中で、出戻ることがない構築的な議論のための「最初の一歩」として、何を提案したらよいだろうかと考えた。巻頭の小野田泰明氏・羽藤英二氏・曽我部昌史氏の言葉は、これまでの建築家への批評を含みながらも新たな示唆を与えてくれるものだった。小野田氏の言葉を借りるならば、これまでの建築家が示してきたものは「アイデアを生み出す」ための方法論であり、これから必要なものは、ひとつの方向性として「アイデアそのものよりもそれを具現化する」ための方法論を提示することではないだろうか。本号を精読したあと、その考えは一層明確になった。
以上のような点を意識しながら50名の案を読み進めた後、年齢に関係なく(といってもとても近い年代の人たちなのですが)、それぞれの世代にとても共感できる視点を持っている方々がいたことは、まだまだたくさんの人たちと建築について議論できる余地があると、その可能性を確認できたような気がした。
>>> 上の写真は、本号表紙中面の写真。1946年に復刊した『新建築』の紙面