2023年8月25日(金)に、井手健一郎がモデレーターを務めた中村人形の新ギャラリー「傀藝堂」でのトークイベント、満員御礼にて無事に終了いたしました。お越しいただきました皆さま、ありがとうございました。以下、少しだけ当日の内容をまとめておきます。
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場所|中村人形「傀藝堂」
日時|2023年8月25日(金)18:00〜
登壇|神谷修平、高須学、二俣公一
モデレーター|井手 健一郎
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当日、登壇者は17:00に会場へ集合し、まずはギャラリー設計者の神谷修平さんと一緒に現地を廻り、建築計画の説明を受ける。18:00過ぎよりトークイベント開始。
まずは神谷さんより自己紹介の後、傀藝堂の計画説明。この建築は、下階を土留め擁壁を兼ねたコンクリート造のギャラリー、上階を木造住居とした、2階建ての建築である。桜坂という「坂と擁壁」が多い地域性から着想を得た建築は、わずかな角度(鈍角)を持った三角形で立面が分割され、隣家壁と連なる立体的な擁壁のような構成である。当初数案提示された中から、3本の幅員の異なるギャラリー空間が連続する、平面形状が「人」という字を描いたようにも感じられる案が採用されている。
機能的な点だけでなく「鈍角で構成する」「外から見た時に詳細がわからない建築」「アスファルトが入口まで繋がっている」などの、この建築を特徴づけている点が対話によって生まれていることは、とても魅力的である。クライアントである中村弘峰さん、信喬先生と繰り返された対話の履歴が、この建築を形づくっていることがわかる。
100年存続するギャラリーとするための商業的な工夫も含め、神谷さんの建築家としての個性や価値観が、十分に感じられる内容だった。その後、進行中のプロジェクトの説明があった後、今日のゲストのお二人と議論したい論点(キーワード)として、「①価値づくり/②普遍的な個別解/③領域つなぎ」という3つのキーワードが提示される。
「①価値づくり」とは、「なぜここに建築が必要なのか」などの本質的な問いから、プロジェクトならではの価値を最大化すること。「②普遍的な個別解」とは、再現性(応用可能な価値や手法)を持った特殊解、と言い換えることができるだろうか。「③領域つなぎ」とは、「家具⇄建築⇄土木⇄都市⇄自然」などの様々なスケールを領域を横断してデザインすること。以上の3つは、神谷さんがつくり手として、プロジェクトの計画設計において、大切にしている(したいと思っている)点である。
まずは、議論の論点をわかりやすくするために、それぞれの立ち位置を整理。神谷さんは東京を拠点として独立7年目(隈研吾氏の事務所で9年、ビャルケ・インゲルスの事務所で2年の修行期間を経て)、高須学さん・二俣公一さん・井手は、福岡をメインの拠点として20〜25年、活動を行っている。また、神谷さん井手は建築家として建築設計を軸足とし、高須さん二俣さんはデザイナーとして、家具インテリアデザインを軸足としている。4者の共通点は、体制などは異なるが、様々なスケールのデザインを行なっている点である。
それぞれの立ち位置を整理後、先輩デザイナーの2人より、建築について意見をいただく。二俣さんからは「一貫性の必要性」について、高須さんからは「ギャラリー空間の更なる設計の可能性」について、意見が出た。
「コンセプトを建築からインテリア、家具まで行き届かせようとしている姿勢はとても良い。ただし、そのコンセプトを一貫させるのは何故か?」という問いは、「物質的な美しさ/空間の居心地の良さ/強さ」から状況を見る、二俣さんらしいものである。また「内部の3つのギャラリー空間それぞれの壁面が正対する必要があったのか?(向かい合う二つの壁面は平行でなくとも良かったのではないか?)」という問いは、「発注者/エンドユーザー/デザイナー」の三位一体のバランスを図りながら「物語/ストーリー」として空間を見る、高須さんらしい指摘だった。
そのような「一貫性の必要性(不必要性)」や、「更なる設計の可能性」についての問いに応答する形で議論はすすみ、最終的には、話題はそれぞれのデザイン観や組織論にまで及んだ。2名の先輩デザイナーから「私の立場やスタンスからこう見えている」という、鋭くも温かい批評は、神谷さんと弘峰さんへの最大の敬意とエールのようにも思えた。このような温かな批評の空間が福岡で実現できたこと自体、この建築の完成度と、建築家とクライアントとの関係性と意思によるものだったと思う。
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詳細はまとめ記事が上がると思いますので、その際に、改めて共有できればと思います。
イベントは初回の実験的な開催ということもあり、椅子の有無や、休憩のタイミングなど含め、いろいろな改善点がありますが、初回の始まりの会にご参集いただきました皆さま、本当にありがとうございました。次回以降も、継続的に会が開催されるようですので、私もとても楽しみにしています。