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SMALL SCALE BIG CHAGE|New Architecture of Social Engagement|社会的な接続をもたらす新たな建築

 知っている方には今更かもしれませんが、2010年から2011年にかけて、MOMA(ニューヨーク近代美術館)で「SMALL SCALE BIG CHAGE」という展覧会が開催されていました。公式サイトがあるのですが、しっかり日本語に翻訳されたものがなかなかなかったので、昨年事務所で翻訳していました。掲載するタイミングを逃していたのですが、人間のたくましさを教えてくれるとても素晴らしい展覧会だったので、ぜひ、みなさんと共有できればと。公式サイトには動画などもあるので、併せて見てみて下さい。

>>>以下、SSBCの公式ウェブサイト、及び、ブックを要約.
                              
WHAT|SSBCとは?
ニューヨーク近代美術館(MoMA)で2010年10月3日から2011年1月3日にかけて行われた展覧会。副題は ”New Architecture of Social Engagement” (社会的な接続をもたらす新たな建築)。従来の「建築」とは関わりのなかったコミュニティに暮らす人達とともに革新的な建築を作り出した建築家とそのプロジェクトの背景、経緯や成り立ちを展示した。

WHY|意図
展示されたプロジェクトはどれも革新的なものであり、建築が本来持つ社会的な責任ということへの新たな関わり方の兆しを示している。加えて、彼らのプロジェクトは「サステイナビリティ」という言葉の新たな定義を提示している。それは新たな素材や技術の実験のみではなく、社会的、経済的な関わりも含めたものとなっている。彼らは実用的な解決策を提示するのみに留まらず、協働するコミュニティへと広く波及的な影響を与えることを目指している。

ABOUT|概要
この展覧会に取り上げられている建築家たちは、過去の建築家が語っていたような尊大なマニフェストやユートピア的な理論が無い代わりに、その徹底的な現実の問題解決への意思を建築を通して表現している。選ばれた建築家たちは機能的な要望を満たすだけでなく、社会的、経済的、政治的なパートナーとしてそのコミュニティに広く、ポジティブな影響をもたらしている。そしてそのプロジェクトの大半は決して大きな規模のものではなく、むしろ小規模なものが多数を占める。選定されたプロジェクトは、新たな参加型のデザインに加えて新たな、そして伝統的な素材両方への探求を含んでいる。計画はすべて先駆的であって、敷地に特化し、現実的にも社会的にも持続可能な実践計画である。この展覧会にあるプロジェクトは全て、都市にとっての鍼灸治療である。計画はすべて根本的に、実際に起こっている問題への回答であり、その介入は限定的でありながら、広い範囲への影響を及ぼす。情報と経験の共有を目的とし、インターネットをベースとして結ばれた、コミュニティリーダー、建築家、NGO団体の3つのネットワークはこの展覧会におけるもうひとつの焦点であり、そのネットワークによってその視野は個々のプロジェクトを超えて、その背景に存在する様々な分野のあらゆる関係者の範囲へと広がっていく。世界中に存在し、増加を続ける多くのプロジェクトの中からこれらのプロジェクトが選定された理由は、それらが、建築家がその社会的影響を考慮しながらも、コスト、プログラム、美観の深刻な問題をクリアしても、なお変化を指揮することができるということを示しているため。彼らはコミュニティに物理的な空間を提供するのみでなく、自分たちで決断を下す機会と、アイデンティティの拡大をもたらした。結果として、ここに現れた建築家達は建築物のデザイナーでありながら、変化をもたらした牽引者でもある。彼らの多様な要素が組合わさった方法論は、建築に関わる者全般にとってひとつのモデルとなり得る。

>>>以下、11プロジェクトの各概要説明.

METI – Handmade School
2004—06
Rudrapur, Bangladesh
Anna Heringer and Eike Roswag
市民や建築家自身による手作りの学校。背景としては、この地域は雨期による川の反乱で湿地が多く、2階建て以上の住居を作る技術がない地域。学校の建設に使用された素材は、藁、粘土、砂や竹などの地元での供給が可能な素材に限定された。本来この地方にはない現代的な技術や工法も導入しているので、工事のプロセス自体が地元の人たちにとっての職業訓練として機能している。背景としてはAnna Heringerが大学在学中の2002年よりRudrapurに関するリサーチを開始、その結果として手作りの学校を卒業設計にて発表。2004年、当時Rudrapurに学校を計画中だった現地NGO団体とコンタクトをとり、プロジェクトの調整を開始。2005年、本格的な工事を開始。2006年完成。

Primary School
1999—2001
Gando, Burkina Faso
Diébédo Francis Kéré
アフリカ、ブルキナファソの村落に建つ小学校。建築家自身の故郷であるこの村には、近現代的な建築技術はなく、住宅はすべて粘土と家畜の糞によってつくられた1階建てのものしか無かった。非常に貧しい地域でありながら、教育機関も存在しなかったため、建築家自身がドイツ留学中に計画を提案した。周辺で手に入る粘土などの伝統的な素材を中心としながら、現代的な構造を組み込んだ建築である。地域の住民自身による工事を実践することで、その技術を身につける職業訓練を兼ねることができ、住民全体の意識の向上に成功している。現在は追加の施設として図書館、女性センター建設の計画が進行中。

Inner-City Arts
1993—2008
Los Angeles, California
Michael Maltzan Architecture
ロサンジェルス郊外、スラム街の一角にある芸術を中心とした多目的スペース。周囲の環境は悪く、子供が街に出て遊ぶことが出来ない状況となっている。また、背景として、カリフォルニア州では公立学校のカリキュラムに、美術に関する科目が組み込まれていないため、子供達に無料で美術教室を開いていたNGOがその活動場所を確保することを目的としている。この施設は外部に対して閉じられており、施設内部の安全性を確保、施設内にある中庭では子供達が集まり、遊ぶことが出来るようになっている。塗装により白く塗られた外観は、すぐに落書き等で汚されることを前提とし、外観の白さを維持する活動をコミュニティで行うことでその結束を強くすることを目的としている。

Casa Familiar: Living Rooms at the Border and Senior Housing with Childcare
2001—present
San Ysidro, California
Estudio Teddy Cruz
コミュニティ空間と託児所付き高齢者住宅。メキシコとの国境に近く、低所得層の移民が多く暮らす地域での計画であり、すでに彼らの手によって合法、不法を問わず様々な機能を持つ場所が作られている。今回の計画ではそれらの不法なものをも含めた雑多な機能を集約し、街の公共施設として機能する複合的な施設を作るのが最終目標としている。コミュニティ施設や文化施設、住宅などをつなぐ遊歩道はコミュニティスペースとしての機能を果たし、様々な使用方法が考えられる空間となる。各施設を10年間の計画でこの地域は街の中の独立したゾーニングに編入されることとなり、2011年に着工を迎える。

Housing for the Fishermen of Tyre
1998—2008
Tyre, Lebanon
Hashim Sarkis A.L.U.D.
海辺で暮らす漁師のための住宅群。周囲は紛争や混乱によってインフラの維持が難しい地域であり、低所得の漁師達は紛争の影響で苦しい生活を強いられている。地域で暮らす人口は多く、衛生面的にも問題があったが、UNESCOの世界遺産として地域が登録されたことによって、新たなに土地を確保して住宅群を建設することが難しい状況であった。その結果、漁師が集まり結成された団体は地域の協会に掛け合い、その協会の持つ区画を寄付してもらうことで計画地を確保した。漁師の団体は建築家として、イスラム圏の文化に精通している建築家を選定した。10年間の協働で完成した現代的な住宅ユニットは、漁師達の要望、ローコスト、豊かなコミュニティスペースを擁する、建築、ランドスケープ、都市計画をひつつにつなげた計画となった。

$20K House VIII [Dave’s House]
2009Newbern, Alabama
Rural Studio, Auburn University
低所得者のための、$20000で建築可能な住宅。Rural Studioは建築家Samuel Mockbeeによって1993年に設立された低所得層のための住宅供給を目指すプロジェクトであり、Auburn Universityのプログラムとしても機能している。授業では生徒達が供給可能なモデルの提案、計画から実際の建設作業までを行うことになっている。この住居はそのモデルが、授業外で初めて建設会社によって建設された、実用化第一号となる。背景として、政府の住宅ローンに申し込むことができる市民はこの街の人口のおよそ40%ほどであるが、現実的にはその大半は$20000以上の ローンの支払いは不可能な状況である。そのため、このプロジェクトではコストの上限を$20000としている。

Metro Cable
2007—10
Caracas, Venezuela
Urban-Think Tank
傾斜地にあるスラム街と街の中心街とをつなぐケーブルカーとその駅舎に付随する施設群。街の中心を囲むように丘がある環境で、丘には多くの不法占拠住宅やスラム街が広がっており、政府はその影響を懸念して、街の中心街とスラム街をつなぐインフラを整備していなかった。完全に断絶された両者をケーブルカーでつなぐことによって、スラム街から中心街へのアクセスを向上し、就業率の向上や日常生活や緊急事態の際の移動時間短縮を目指している。また、幹線道路などの介入を避けることで、住宅の退去等が行われないで済むようになっている。ケーブルカーの中継地点として設置される駅に関しては、図書館や体育館、コミュニティセンターなどの複合的な機能を持たせることで、それぞれの地域の新たな中心となるように計画されている。

Manguinhos Complex
2005—10
Rio de Janeiro, Brazil
Jorge Mario Jáuregui / Metrópolis Porjectos Urbanos
高架鉄道とその下の空間を利用した公共空間。高い犯罪率と公共空間、コミュニティ施設の不足が問題となっている地域で、地元住民へのインタビューとヒアリングからスタートしたプロジェクト。現在通っている鉄道を高架にすることによって、街における物理的、心理的な障壁を取り除き、高架下を公園やパブリックスペースとして解放することで、住民が集まることの出来る場所をつくりだすという計画。計画内には転居が必要とされている世帯の住宅のプランも組み込まれている。既存の社会的なつながりを壊すこと無く、新たなインフラを整備することを目指している。

Transformation of Tour Bois-le-Prêtre
2006—11
Paris, France
Frédéric Druot, Anne Lacaton, and Jean Philippe Vassal
二十世紀に建設された低所得層が暮らす高層アパートの改修計画。隔離され、均一な部屋が並ぶ二十世紀中頃の集合住宅を、取り壊すこと無く、ローコストで改修することを目指している。住民へのインタビューによって計画の焦点は室内空間の拡張と、自然採光にしぼられた。プロジェクト内容としては、プレハブによって製造されるガラスで覆われた外部構造を用いて既存のアパート全体を覆い、同時に住戸内の隔壁等を取り除く作業を行うことになっている。工事の際には住民がほぼ移動する必要がないように計画されている。

Red Location Museum of Struggle
1998—2005
Port Elizabeth, South Africa
Noero Wolff Architects
非白人居住区の歴史を展示するための博物館。敷地は南アフリカ内でも最も古い非白人居住区のひとつ。この非白人居住区は1902年に制定され、様々な社会活動やプロテスト活動の中心となってきた。1994年から進められている計画によってこの地にアパルトヘイト時代の記憶、記録を展示する美術館を建設し、地域全体の再開発の中心とすることを目指している。建設には地域住民を雇用し、作業のための訓練が必要な場合は無償でそれを提供することで労働者全体の底上げを図っている。この地域自体がその歴史によって、あらゆる公共施設から切り離されているため、新たな都市開発によってそれを改善していくことを目指している。