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まちの中に建築をつくる意味を問い続けること| MATツアー+セミナー|2016.08.27.SAT

先週末土曜日は、「NPO法人 福岡建築ファウンデーション(FAF)」が開催した、「MAT SPECIAL 建築ツアー+セミナー|天神明治通りのこれまでとこれから」に伺いました。「FAF」は、水上公園で設計をご一緒したスピングラス・アーキテクツ/松岡恭子さんが理事を務めるNPOです。今回の企画は、前半のセミナーと後半のツアーを1つの企画として開催する、FAF初の試み。明治通り沿いにある「天神ビル|福岡銀行本店|アクロス福岡|水上公園(SHIP’S GARDEN)」という、新旧4つの建築について、前半のセミナーでは各建築の設計関係者からお話しを伺い、後半のツアーでは実際に建築を(一部建築では普段公開されていない場所を含めて)内覧できる、というイベントでした。

以下、前半のセミナーの内容や感想を。

まず、アクロス福岡の設計をエミリオ・アンバース事務所のスタッフ時代に担当されていた川口英俊さんのレクチャーから。当時の事務所で進行していたプロジェクトの紹介を通してアンバース氏の人柄や、日本の「庭」などへの興味が語られました。アクロス福岡(設計競技時の仮称は「福岡市国際会館」)の設計では、「昔からあったものを、どのようして今後の都市の計画に活かしていくのか?」「人の舞台のための装置として」ということから設計が出発し、「公共」というものの取り扱い方について、所内で様々な議論があったことを伺うことができました。

建物の屋上を「天神中央公園からひとつづきの丘として都市に開放する」というアプローチは、「何もないことが素晴らしい」とアンバース氏自身が表現した「天神中央公園」への敬意の表れであり、その風景を「借景」することを目指したものだったといいます。施工を担当した竹中工務店の現九州支店長/吉田寛史さんが「建築の屋上を森にするということは、施工技術としても、わが社にとってエポックな出来事だった」と語っていたように、さまざまな協議、技術開発の末、この案が実現されたことを知ることができました。「この建築を選んだ福岡県がすごい!」とおっしゃっていたことも、とても印象的でした。

2つ目は天神ビルの話しを、設計施工を担当された竹中工務店の現九州支店長/吉田寛史さんより。建設当時の福岡の街の風景写真や、建設中の工事風景を映像で記録したフィルムの上映などが行われました。工期短縮のために採用された「潜函工法(先行してつくった地下の構造物を、地上部分の工事を進めながら地下に沈めていく工法)」の映像は初めてみましたが、すごいですね、とても半世紀以上前の工事風景とは思えません(笑)。

計画にあたっては、「高度経済成長期期のオフィスビルの在り方」が議論され、「戦後復興の象徴」を目指してプロジェクトが進められたといいます。地下の発電室やクリニック、食堂、サロン、展望台などが高密に複合した計画は、当時としてはとても画期的だったはずです。また、「歩行者のための空間」を確保するように歩道に面して計画された「ポルティコ」と名付けられたピロティ形式の歩廊部分のデザインは、その後に天神ビルの発注者である「九州電力株式会社」が、渡辺通り沿いに開発を進めることになる電気ビル(本館・新館・北館・共創館)にも反復してデザインモチーフとして用いられています。

3つ目は福岡銀行本店の話しを、設計の黒川紀章事務所でこのプロジェクト担当だった高井實さんより。設計案が確定するまでのプランの履歴や、現場が進む中で描かれた黒川さんや高井さんの詳細スケッチなどが示され、基本構想から設計完了までの10ヶ月のやり取りや、その後の現場での秘話を伺うことができました。設計の初期段階で黒川さんが描いたスケッチには「都市の中にメディアをつくる」「広場の建築化」「媒体としての空間」などの文字が、イメージスケッチとともにありました。

「素晴らしい芸術の理解者でした」と高井さんが発注者(当時の頭取|蟻川五二郎氏のこと)を形容したように、発注者の理解がなければ、現在の姿で建築が建つことはなかったはずです。この設計が始まった当時、黒川さんが30代、高井さんが20代。高井さんは黒川事務所に入所する前の3年間、村野藤吾事務所にいらっしゃったそうで、各ディティールは20代の技術者が描いたとはとても思えない成熟度です。

最後に水上公園|SHIP’S GARDEN(シップス・ガーデン)の話しを、松岡恭子さんより。今回のイベントが日本建築学会との共催だったこともあり、県外からの参加者も多く、福岡の歴史的背景、地域特性など基礎的な説明から、水上公園の事業詳細、位置づけ、コンソーシアムのチーム編成、設計コンセプトについてまで丁寧に説明がありました。

時代を超えて建設された天神ビル(1960年竣工)、福岡銀行本店(1975年竣工)、アクロス福岡(1995年竣工)に続いて水上公園(2016年竣工)の説明を、こうやって改めて「天神明治通り」というひとつの通りの歴史として聞いていると、天神明治通りや天神・福岡というまちの半世紀とは、「まちの中に建築をつくることの意味」を問い、実践し続けきた歴史なのだな、と、改めて考えさせられました。私たちが水上公園を設計する際に考えていたことや議論していた内容は、それまで福岡のまちに存在していた建築から学んだことがとても大きく影響しているし、そのようにして、まちの中に建築をつくる意味を問い続けることが、新しくまちの中に線を描いていく者の責任でもあるのだな、と。

これだけのイベント、準備や運営などとても大変だっただろうと推察します。とても貴重な機会を、ありがとうございました!

写真は、天神ビルの塔屋(かつての展望台)から福岡の北側を撮影したもの。初めてここから福岡のまちを眺めてみましたが、
本当に海が近いですね。ここからだと志賀島や海の中道の砂浜まで確認できます。