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愛媛大洲/街が不自然さを纏わないための作法/地域の人が地域を伝える

昨日は設計で関わっていた『 うなぎの寝床 愛媛大洲店 』のプレオープンの日、改めて関係者で座談形式のトークイベントも開催された。お越しいただきました皆様、ありがとうございました。私としても、大洲のみなさんや、うなぎの寝床さんとの協働を振り返る、とても良い時間でした。

オープン当日の朝.
座談会の様子.

街が不自然さを纏わないための作法

トークイベントでは、うなぎの寝床/富永さんから挨拶の後、今回うなぎの寝床さんを誘致したキタ・マネジメント/井上さんから事の経緯を説明。大洲を取り巻く過去の経済圏を参照し、都市と周辺の自然や田園がつくり出す地域の全体像を「テリトーリオ」と呼び、大洲なりの『歴史まちづくり(歴史的資源を活用した観光まちづくり事業)』を実践している方。出店依頼を3度断られてもめげずに、うなぎさんにアプローチしていたようだった。

一般社団法人 キタ・マネジメント/井上 陽祐さん.

大洲は「南予(なんよ)」と呼ばれる愛媛県南部に位置する。象徴である肱川を中心に成立した街は「伊予の小京都」と呼ばれ、大洲城城下町には、江戸時代に木蝋で財をなした豪商の邸宅や蔵、元料亭など、大洲の由緒ある邸宅が、NIPPONIAブランドの宿として生まれ変わり、客室数はこの数年で32室にまで拡大している。

NIPPONIAホテル.

街に残る邸宅を改修し客室としている.

大洲城下町のまちづくりは、伝統的建造物保存地区などの規制をかけずに、自主的に行なっている建造物群の保存活動である。街の文脈をつくってきたものを残していくのだが、「自分たちの役割は、オーナー自身が維持できなくなったものを引き受けて改修することだ」と語るように、改修して再利用できるとは思えないような傷み方をしているものも一手に引き受け、改修していく。この物件も、昨年初めて訪れた時には、建物の中で傘をさささなければならないような状態だった。

街に残る建物を改修し、この街に足りない機能を誘致して入れ込んでいく。ただし、「人の暮らしあっての街」と井上さんが言うように、「街で暮らす人々の日常」と「観光で訪れた人の非日常」のバランスを保った状態がベストだと考え、「あと数件ランチできるお店が集まればいいなと考えている」と、いまの密度感を保つように考えているようだった。

建築当初の看板「新田産婦人科」が残されたエントランス.

今回改修された建築は、入口上部に残された看板に「新田産婦人科」とあるように、大正期に建てられたいわゆる「木造モルタル」の建物である。このような少し西洋的な雰囲気を感じる建造物は、世の中が西洋化していく中で、大工たちが西洋の建築を見よう見まねで作り上げたもの、大文字の建築の歴史には登場することは少ないが、これも地域の文脈を語る上でとても重要だ。建築当時を想像すると、ここはとても先進的な雰囲気が感じられる場所だっただろう。

昨日のプレオープンの際にも、訪れた人同士が「ここの生まれ?」と確認しあったり、「昔は奥に小屋があった」と当時の風景を語ってくれたりしていた。建物が残ったからこそ、そのような対話が生まれる。街の風景も大洲城や臥龍山荘、商家や蔵、その後、街が民主化していく過程で生まれた木造モルタルの医院群や、戦後の木造住宅などが「生きた景観」として、街の歴史を感じさせてくれる。

いつ訪れても「大洲の日常」にお邪魔させていただいているような、「観光地」としての体感だけではない感覚は、街が自然なバランスを崩さないように、街並みが「不自然さ」纏わないように、保存改修や商業的密度がコントロールされることによって育まれた、この街独自の「歴史まちづくり」のあり方かもしれない。

住宅前のランドスケープ.

ソーラーパネルで動く人形たち.

地域の人が地域を伝える

うなぎの寝床/春口丞悟さん

その後、うなぎの寝床の春口さんより、会社の紹介、今回の店づくりで考えてきたことなどを説明。当初、この地での店舗出店は考えていなかったが、何度も断っても誘いをくれる井上さんの人柄と熱意・意思に共感し、出店を決めたという。計画に着手する時、代表の白水さんからは「ただ出店するだけではなく、四国での地域文化を顕在化させる活動隊としての場をつくる実験を一緒にやってみよう思っている」と話を伺っていた。

彼らは自分たちのことを「地域文化商社」と位置付け、「都市に対する地方=ローカル」「その土地らしさ=ネイティブ」と明確に分け、「土地の歴史を重んじ未来へつなぐ意識を持った人々の営む風景=ネイティブスケープ」を顕在化させ伝えていくことを、自分たちの役割だと考えている。

うなぎの寝床が目指す循環のイメージ.

ネイティブスケープとは?

今回の出店が決まってから、肱川の恩恵を受けて発展した「大洲和紙」や、2018年の西日本豪雨からの復興から生まれた「シルク石鹸」など、「① 地理的な特徴/② 歴史的な背景/③ つくり手の意思/④ 素材と技術/⑤ 価格と機能性」という5つの視点をもって、改めて四国・瀬戸内を巡り、地域のリサーチを行い、たくさんの商品を集めている。

また、砥部焼の歴史を紐解いていく過程で、明治維新以降に九州の唐津や有田などの先進地の技術が砥部町の窯場にも入り込むようになり、現在の姿が出来上がっていったことなど、期せずして九州と四国との繋がりを発見したり、九州は杉が多いが、四国はヒノキが多い地域柄であることなどを再発見するなど、そのような背景の気づきは、店舗のディスプレイにも反映されている。

ただ単純に四国・瀬戸内のものを集めるだけでなく、他の地域を並列に並べ、対比的に取り扱うことで、同じような技術でも、地域やつくり手によって製品がことなることを暗に伝えている。

会話は多岐に及んだが、会場からの「なぜ、うなぎの寝床さんに声をかけたのか?」という最後の質問に、井上さんが「まずは自分の街に来て欲しいと思える人たちかどうか、それを最も大切にしている」と答えていて、そのような人びとの意思の繋がりが、街を変え、その集積がその街らしさに繋がっていくのだな、と、改めて考えさせられた。

砥部焼の背後に並べられた有田焼/春口さんによる歴史を表現したディスプレイ.

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プレオープンでのハイライトがもうひとつ。「お店から徒歩2分のところが実家なんです」という男性が販売スタッフとしてお店に立っていたのだが、その彼が、訪れた地元の友人たちにうなぎの寝床のことや、商品のことを説明しているところを見て、地域の人が地域のものを自信を持って伝える姿はとても良いなと思った。ビションを描く白水さん、イメージをつくる春口さん、それをつなげる富永さん、この3人の役員の無言のコミュニケーションによって成立している「うなぎの寝床」という編集力を背骨としたチームの真骨頂は、このようにして域外に出向いた時にこそ活かされるのではないか、と感じる風景でした。

大洲出身のショップスタッフに商品のことを伝える春口さん.

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