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筑後吉井駅|左官|馴染み

今日は午後から、現在筑後吉井駅で進行中のインテリアの左官工事の打合せのため、原田左研の原田進さんに会いに日田に向かう。原田さんは、今月の初旬に心不全のために緊急入院をしたが、症状を自覚してから病院で対処するまでのタイムラグが短かったおかげで、大事には至らなかったそうだ。先日無事に退院し、徐々に現場復帰されている。顔色も良くとてもお元気そう。「もう65歳、師匠から受け継いだ技術を弟子にしっかり渡したので、職人としての役目は果たした」と謙遜されるが、まだまだ現役で仕事を形として残してもらいたい。今回のプロジェクトでは、JR久大本線/筑後吉井駅にカフェ(コーヒーが飲める豆屋)をつくる。1928年(昭和3年)に開業した駅には、以前は貨物列車も停まっていたようで、いまでもその名残を感じることができる。施主たっての希望で、メインとなるカウンターや半屋外にコンクリートで成形するテーブルの天板などの左官仕上げをお願いすることにしている。既存の駅舎のインテリアの空気感がとても良い。カフェやそのために必要な設えが昔からあったかのように感じられるものにするために、塗装も色彩だけでなく、その仕上げ方(使う道具や動かし方)なども思案を続けている。原田さんから「半屋外のテーブル天板は凪のように表面が揺らいでいる方が良いね」と提案を受ける。確かにピンピンに尖った天板は馴染まず浮いてしまいそうで、快諾する。意図的に傷をつけた左官天板を「凪」と表現するところが、なんとも洒落ている。その言葉に触発されて、ディティールの話しが盛り上がる。最終的には現場での調整にはなるが、仕上がりがとても楽しみ。

話しはいろいろ脱線して、左官と大工の関わりの話しになった。「左官とは大工を助ける仕事」ということを、原田さんが昔飛び込みで立ち寄った福岡市内の魚屋で教えてもらった、という話しになった。大工の意図を汲んで納めることが左官の仕事だと。数寄屋建築などは特に。左官職人が大工の意図を汲んだことや、それを実現するために施した技術などは目立たず消えた方が良い、と。その調和こそが良い建築を生み出す、という考えは、私たちが考える「馴染み」という感覚にとても近い。そうか、この独特の価値観は職人由来のものだったな、と合点がいく。

帰り際、どのように技術を教えているのか、と尋ねてみた。「難しいね」と、一言。たくさんの有能なお弟子さんを排出されている原田さんですら、いまでも悩みながらやっているそうだ。人それぞれに性格や吸収するタイミングが異なるので、その人がスポンジのように吸収するタイミングを見極めること。それはいつまで経っても難しいと。とても身に染み入る言葉だった。 

筑後吉井駅

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