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このショップは、デザイナーがつくったものをバイイングし販売する「セレクトショップ」である。ショップのオリジナル商品は作らずに、「セレクト」したものを販売することだけを10年間継続しており、顧客だけでなく、スタッフやデザイナーとの信頼関係の上に成立していた。「ファッションはビジネスだが、ビジネスは結果であって欲しい」というバイヤーの言葉に共感を覚えた。広さ170坪を超える内部空間には、ファッションだけでなく様々な機能が盛り込まれ、外部には強烈な「象徴性」の提案が求められた。
最終的に私たちが提案したコンセプトは「カルテ」。通常、病院などで使用される施設側のために作成されるものではなく、顧客と情報を共有するための「カルテ」である。本来ショップに携わる人間なら当然記憶している顧客の様々な嗜好を、あえて他の顧客とも共有し、履歴をデータとして記録していくことが出来れば、それは顧客ひとりひとりの歴史となるはずである。それを建築全体で演出することができれば、地域に根ざしたショップだからこそ成立する個性になるのではないか。顧客との関係性の集積としてカルテが並ぶ本棚や、そこでの人々の振る舞いが、何よりもショップの象徴になると考えた。
特別な意匠を施す事で空間(ハード面)を主張するのではなく、セレクトショップとしての快適性(ソフト面)を追求し、そこから導かれた空間(ハード面)へのアプローチが、結果としてそのショップにふさわしい「象徴性」に繋がることを目指した。