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MITORO HILL|第一期|オープニング|HELLO CAMP IN KAKOGAWA

先月8月4日に、兵庫県加古川市で進めている「見土呂フルーツパーク 再整備事業」の第一期工事が完成し、オープニングのイベントが開催されました。当日は市長も訪れ、工事に先立って組織された「キッズファーマーズクラブ」の子ども達との記念植樹などが行われました。

あるものは活かし/ないものは最小限でつくる

「見土呂フルーツパーク」は、1990年代後半に竣工した農業公園である。10万平米を超える敷地には植物園として利用されるガラス温室や、果樹園や農場、敷地奥にある展望台からは「ひと・まち・しぜん」を基本理念とする加古川市を象徴するような風景が一望できる。しかし、施設は竣工から20年以上が経過して老朽化が進み、また、ライフスタイルの変化と共に、時代のニーズとのズレが出てきていた。

日本中のこの時代に建設された多くの施設がそうであるように、当時の余暇(レジャー/非日常)を満たすために整備された施設の「社会的老朽化」とでも言うべき状況は、地域が抱える大きな問題のひとつとなっている。施設によっては閉鎖を余儀なくされるものもあるが、この場所は、とても丁寧に手入れがなされ、大切に維持されてきた。しかし、ガラス温室を植物園として維持するための加温設備を改修するにはかなりの費用がかかるなどの課題もあり、この場所をどのようにアップデートするのか、その提案を求める公募型のプロポーザルが開催された。

このプロジェクトは、「DBO方式」での提案が求められたものである。「D=Design(設計)」、「B=Build(工事)」、「O=Operation(運営)」とが三位一体となったチームを編成し、提案を行う。自らが提案した計画に基づいて「設計(D)」し、その施設を「工事(B)」して整備し、その出来上がった施設を15年間「運営(O)」する。弊チームでの運営は昨年10月より始まっている。運営母体となるLDL(ローカル・デベロップメント・ラボ)は福岡市拠点の企業だが、この運営を行うにあたって、地域の企業を巻き込み連携し運営にあたっている。

このチーム編成や地域とのコミュニケーションの図り方は、本当に素晴らしいと思う。設計は私たちが行うが、建設工事は地域の企業と連携しながら進めている。これまで私たちが関わってきた福岡市の水上公園の「シップスガーデン(公園は公設民営/建築は民設民営)」や大濠公園の「大濠テスラ(民設民営)」のようなPark-PFI方式とは違い、このプロジェクトにかかる費用は全て公共が負担する、という事業スキームである。

現在、DBO方式のプロジェクトは日本中で見られるようになってきた。その中でも、このプロジェクトの特異さは、既存の施設を「建て替える」のではなく、大切に手入れ運営されてきた既存の施設を活かしながら「アップデートする(改修する/リノベーションする)」という選択をしたことだろう。

「こうありたい」というビジョンに基づき一定の整備内容を市が提示しつつも、既存施設や環境をどのように読み解くかは「民間事業者」の提案に委ねられた事業であり、優先交渉権者に選定された私たちの提案の骨子は「あるものは活かし/ないものは最小限でつくる」ことであった。

「最小限で」ということの意味は、「出来る限り既存を活かす」ことであり「出来るだけ最小限のコストで最大限の関係をつくりだす」ことでもあり、「最小限の大きさで整備する」ということである。そのような「最小限」の積み重ねが、計画の再現性と未来の冗長性を最大化するために最適な方法ではないか、と考えている。

鑑賞から体験へ/流れを引き継ぐ

求められた宿泊機能を満たすものは、最小限の仮設構造物として整備し、植物園は一部ガラスを撤去して自然の風を受け入れて屋内公園と位置付けを変え、敷地内のアクティビティを繋ぐための拠点を、小さな木造の建築(や構造物)として散りばめていく。

仮設構造物で整備するグランピング(簡易宿泊)施設も特徴的ではあるが、既存建築に一部寄りかかるように(耐力負担するように検定比を確認しながら)計画した入れ子状の小さな建築群によるガラス温室の改修計画は、とても稀有な公共建築の事例になるだろう。

最終的には、10万平米の敷地の中にある、6つの既存建築物を改修(リノベーション)し、17の小さな木造建築(仮設の構造物含む)を建て、敷地全体を整備する。また、当時の意匠的なコンクリート構造物や鉄骨造の東屋なども風景を自然さを取り戻すように解体撤去し、必要なものは木造で再整備を行う。いままで鑑賞するしかなかった場を開き、より体験的な価値を提供していく予定だ。

また、リノベーション設計をやり続けた実感として、一度人の流れを失ってしまった場所に、新たに人の流れを生むことはとても難しい。そのため、今回の計画では、公園全体を一度も閉鎖することなく段階的に工事を進める計画とした。工事区画を移動しながら整備を進めて、段階的にオープンを行っていく方式を選択している。この方式の採用には市とも多くの議論があったが、今回第一弾がオープンした状況を見て、この方式で実現することの意義が確認でき、とても良かったと思う。

日本では、本当の意味での「社会実験」の機会が圧倒的に少ないように思う。例えば欧州では、デンマークのようにバス停を刷新するためには運行ダイヤの改変が必須、その変更を行うと、実際に街でどのような問題が起こるのか「実際の街で実験する」期間を設けていたりする。そこで一度「失敗」を経験することで、本番の社会実装のタイミングで問題が起こらないように入念な準備をする。新しい取り組みは「失敗」する前提である。この「段階的オープン」は、そのように「失敗」が許されにくい、「社会実験」が少ない環境の中で、新しさを社会実装するための一つの手段ではないか、と考えている。

今回の第一期オープンに合わせて、坂口修一郎さん率いる「BAGN」と共催した3日間の「hello camp in kakogawa」を、オープニングイベントとして開催した。私たち自身も、イベント2日目の夜(最終日の前日)、もっと地域の方々に新たな見土呂の姿を知ってもらおうと、地域の盆踊り会場でビラを撒いて歩き、たくさんの地元の方々と会話することができた。無視することなく意見してもらえることに、たくさんの勇気をいただく。イベント最終日は想定を遥かに上回る来場者数となった。

この第一期でオープンしたもの、新たにつくったものは、ごく僅かである。それでもこの場所にこれだけの状況が生まれたことは、とても喜ばしい出来事だった。

酷暑の夏、トラフィックの問題などもあり、3日間通じて全てが大成功、という訳ではないが、イベントを開催したことにより、どのような状況が生まれるのか、問題が発生するのか知ることができ、また、それによって、地域の方々との真剣な対話が生まれたことも、大きな成果のひとつだと思っている。

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