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この計画に着手するにあたり提示されたキーワードは「HOME/ホーム」。「家のような…」や「アットホームな…」というような漠然としたものではなく、激変する街の姿や価値観、社会的環境の中で、会社に関わる人たちが帰ってくることが出来るような、精神的なよりどころとして「帰属する場所が必要ではないか?」という問題意識から発せられた言葉であった。人々が暮らし、帰ってくることができる「家/巣」のような状態とは、どのようなものだろうかと思考することが、計画の出発点となった。
オフィスの不自然さ/日常の自然さ/biscuit-ware/自由な型
近年、世界中で量産されてきたオフィス空間の殆どは、「人間にとって最も生産性(パフォーマンス)の高い環境がある」という前提で設計されてきた。大多数の人が快適に感じるであろう平均的な室内環境を実現するために、無難な温度・快適性が選択され、内部環境は機械的にコントロールされている。この機械的・人工的に制御された室内の状態は、とても単調で不自然なものである。一方、私たちが日常的に体験する外部環境は自然であり、多様で濃密な体験に満ちている。気候や季節、時間など、外部の状態に応じて人々が振る舞いを変えることで、それぞれが自分の望む状態を自分の手で選び取ることができるような「自由な型(biscuit-ware)」をつくりたいと考えた。
家/アパートメント/マド/庇/バルコニー
建物の室内と外部の境界面をどのようにつくるかということは、建築する上で大変重要な問題である。その境界面のあり方が室内の状態を左右し、街と建物の関係性までも規定してしまう。現代の日本のように街並みでさえも速いスピードで変化し、内部においても最大限の可変性が要求されるオフィス空間では、尚更である。人々は、その地域特有の多様な外部環境から身を守りつつ、快適な暮らしを楽しむために、たくさんの建築的な設えを生み出してきた。この計画案では、室内と外部の境界面にある、マド(窓/間戸)や庇、バルコニー、外壁など、その材質や形状、大きさや厚みなど、細部を徹底的にデザインすることで、室内と外部、ヒトと建物、建物と街など、たくさんの関係性に、最大限の可能性を担保したいと考えた。