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通常のオフィスビルでは、入居者が共有して利用する部分(廊下・階段・EV・水廻りなど)の床面積を最小限に抑え、貸し室の床面積を最大化し、出来る限り多く収益可能な面積を確保することが求められる。そのようにして得られる基準階の「レンタブル比(貸し床面積/延べ床面積)」が高いことが事業性の判断基準となり、同じようなプランの事務所スペースが世界中で量産されてきた。
計画に着手した時期に福岡市中心市街地に立地する事務所ビルの状況を調査したところ、新築ビル(1年以内に竣工したもの)の空室率は60%を超え、既存の事務所ビルも12%を超えるスペースが空室となっていることが判明し、このような状況の中では、既存の価値観の延長線上に計画を行っても、事業性が低くなることは明白であった。
このプロジェクトの特徴は、大通りに面して設けられた大きな共用スペースである。フロアは4つのオフィスに分割され、その全てのオフィスは、共用スペースを介してアプローチする計画となっている。この共有スペースがそれぞれのオフィスの延長としての機能を担うと同時に、オフィスの垣根を越えたコミュニケーションの場になり、まちとの接点にもなることを目指して設計した。
楽しく彩られたまちや生活の背景には、いつもデザインやクリエイティブがあるが、さらにその背景には、共同性から自然に生まれる「会話」や「議論」があるはずである。まちや働く場所には、そのような状況を設計することが必要であると考えている。