
2023年9月2日(土)、熊本県玉名市天水に拠点を置く「天水福祉事業会」にて、初めてのオープンデイが開催されました。「オープンデイ」とは、地域の方々、法人の職員、施設利用者に限らず、すべての人に敷地が開かれる日。今回はその“0回目”、いわば「はじまりのはじまり」として、「地域と福祉」をキーワードに、これまで法人のみなさんが関わってきた人や、これから話をしてみたい人たちが集まり、ワークショップ、トークイベント、そしてダイニングアウトが行われました。以下に当日の様子をまとめます。
今回は初めての試みということもあり、参加者と共に手探りで準備を進めてきました。ワークショップでは、法人が焼酎づくりのために育てている米の稲藁を使った「草鞋(わらじ)づくり」、そして使用済みの米袋を活用した「バッグづくり」を実施。どちらも身近な素材を生かし、ものづくりの楽しさと循環の考えを体験できる機会となりました。





トークイベントは、「これから何をしていくべきか、いろんな人と話してみたい」という國友さんご夫妻の一言から始まり、開催が決定。大きなテーマを掲げるというよりも、「まずはやってみよう」という姿勢から生まれた今回の集まり。そこで、会の冒頭では、招待状に記された國友理恵さんの言葉を読み直すことから始めました。そこには、「地域と福祉を改めて考えるきっかけにしたい」という想い、そして「過疎地域指定/少子高齢化/空き家/耕作放棄地」といった地域が抱える課題に対する問題意識が率直に綴られていました。


昨年、天水地域は「過疎地域」の指定を受けましたが、ここでは、子どもも大人も、高齢者も障害のある人も、自然に、互いの存在をあたりまえとして受け入れながら暮らしています。初めて天水福祉事業会を訪れたとき、そこにある「ありのままの日常」に強く心を動かされました。
今年で設立70周年を迎えるこの法人は、地域の「こんなことがあったらいいな」に応える形で活動を続けてきました。戦後の物資不足や娯楽が求められた時代には百貨店のような機能を担い、ベビーブーム期には保育園を設立。その後も、障害のある方の働く場や、高齢者の居場所など、多様なニーズに応えてきました。
現在では、同じ敷地内で「児童・障害・高齢」3つの分野の福祉が実践されています。しかし昨今、「子どもの声ですら騒音とされる」といった社会の空気の中で、これらを同じ場所で実現することは決して容易ではありません。福祉は特別なものでも、他人ごとでもなく、「安心して暮らす」ための仕組み。そう捉え直せば、日常の営みの多くが、実は「福祉的」でもあります。地域福祉の本質とは、「ウェルビーイング=心地よく、安心して暮らせること」に寄与することなのです。
対話が進む中で、集まった多様な分野の方々が、それぞれの立場から「地域と福祉」に向き合う姿を見て、少しずつ、地域が抱える課題の輪郭が見えてきたように感じました。
これまで「こんなことがあったらいいな」に応える形で、多くの事業を形にしてきた天水福祉事業会。けれど、今なぜ悩み迷っているのか。それは、課題の原因が複雑化し、誰もが明確な「要望」を言語化できなくなっているからです。つまり、「やるべきこと」は潜在したまま、まだ表に現れていない。だからこそ、地域と継続的に対話することが、次に進むための一歩になる。具体的な解決策はわからなくても、次にやるべきことは、少しずつ見えてきた——そんな感触がありました。
イベントの最後には、参加者全員で食事を囲みました。今回使用した3つの空間は、昨年私たちがリノベーションを手がけた場所です。ワークショップは、壁を取り払い保育室を一続きの空間にした場所で。トークイベントは、減築と木質化によって開放的なテラスとなった場所で。そしてダイニングアウトは、かつて建物だった場所を取り払い、新たな風と人の通り道とした空間で開催しました。
食事の際、職員や参加者の方から「こういう光景を想像していたのですか?」と尋ねられました。 もちろん、このような時間を実現するために空間の計画を進めてきました。でも、時間と場所を共有したことで、想像をはるかに超える情景が生まれたことに、とても驚き、感動しました。
いまは、さまざまなつながり方ができる時代です。しかし、やはり「リアルに集まること」には、他には代えがたい価値があります。今回のオープンデイは、そのことを改めて教えてくれる一日となりました。


