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熊本県益城町に拠点を構える「株式会社再春館製薬所」のために計画した体育館。この場所で働く方々の「心身のリフレッシュの場」としてだけでなく、オでリンピック選手を有する女子バドミントンチームが、世界で勝つ力を手にいれるための「練習の場」として、また、地域との「交流の場」として計画された。
求められた施設規模や持続的な土地利用を考えると、建築は、長年かけて育てられた敷地風景を背負うようにして建つことになり、また、アリーナに求められる天井高や、それを支える構造体などを考えると、建築の高さは地上15.0M近くなることが想定された。そのため、敷地の風景との関係に配慮し「建築を埋める」ということは、比較的計画の初期段階で、クライアントとの間で合意された事項だった。正確には「埋める」ことを決めたわけではなく、「建築の高さがアプローチの並木道にある木々(高さ7.0メートル程)を超えない」ことを決めたわけだが、そうすると必然的に建築を「埋める」ということを選択することになった。驚いたことに、その地盤掘削をクライアントが「自ら行うことができる」という。20万平米を超える敷地を維持する中で、社内にその造成や植栽の手入れなどの作業を担ってきた部門があり、そのチームが今回の地盤掘削を引き受けてくれるという特殊な状況が、大きな与件となった。
大きく掘りこまれる地面に、大きな一枚屋根をかける。そのようにして最小限の操作の中で建築を考えることが、背後にある風景と共にある建築の在り方として相応しいのではないかと考え、設計した。完成した建築は、地面に8.0M埋まり、室内よりもひと回り大きなトラス屋根のかかる、地上2階建ての半地下建築となった。建築の高さは、アプローチに並ぶ樹木(=7.0M)を超えない高さとし、内部には2階から入る計画とした。土と屋根で守られたアリーナ空間は、外部負荷が最小限に抑えられ、無風の状態で室内空気をコントロールできるようになっている。建物の配置については、既存の工場や本社社屋のグリッドに沿うように通り芯の傾きを決定した。空港が近く、上空からの視線に晒されることが多いこの場所への配慮である。
体育館は無事にオープンを迎え、去る2017年7月29日に杮落しのイベントとして「バドミントン 熊本地震復興イベント」が開催された。この地域ではたくさんの出来事が起こった。クライアントの中でも「この時期に体育館を建てるべきなのか?」という議論があったはずである。それでも「まちに元気と笑顔を届けよう」と、たくさんの苦悩を乗り越え完成した建築が、この「サクラリーナ」である。イベントのこの日、社員や選手の方たちだけで地域の家族や子どもたちがここに集まり楽しんでいる姿が、何にも代え難い出来事だった。