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熊本市中心街に計画した飲食店。この飲食店が位置する「上乃裏(かみのうら)通り」一帯は、第二次世界大戦の空襲を免れ、築100年を超える建物や倉庫が多く残るエリアである。古い建物が次々と取り壊され、「古いもの」や「裏通りの魅力」が失われていくことを危惧した地元の工務店などにより、所有者に「建物を捨てるのではなく、再生すること」を働きかけながら、古い建物の良さを生かし、新しい店に甦らせる街づくりが進み、現在のような趣ある景色が生まれている。
元々この場所で運営していた飲食店で、10周年を機にリニューアルすることになった。この建築は元々蔵だった建築をコンバージョンしたもので、並存するいくつかの建築のうちの一つである。2店舗が共存する建築となっており、2階がオープンキッチン形式の居酒屋、1階がカウンター形式のバーとなっている。
2階と1階は別の店舗であるが、一体感を持たせつつ、それぞれの個性が滲むよう微妙な差異を持たせた。全体をグレーの左官仕上げにすることと、木材で仕上げるというルールは共通だが、壁面のパネリング材は各階で材、寸法共に違ったものを選択。素材や厚みが異なることで、それぞれの類似性の中にある差異を生み出している。
2階部分は既存の小屋組を活かした天井と、新設した米トガの壁面パネリング材の木目が緩やかなコントラストをつくっている。1階のバー空間は最小限のライティングで成立するように、各部位のディティールを計画した。既存店舗にあったカウンター材を再加工したカウンターが、新しくも昔からそこにあったかのような雰囲気をつくっている。
また、1階のバーの前面道路に面したファサードには、全面開放可能な大きな一枚の開き戸があり、開放することで半屋外のバーにすることもできる。建具を開くというワンアクションで、二つの性格を併せ持つバーになるという選択肢を忍ばせた。閉じている時には普段の静けさに馴染み、イベント時などには開放することで街並みを変えることもできる、「晴れとケ」のどちらにも対応可能な仕掛けである。