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この計画は、福岡市内から車で40分程の街に計画した鉄骨2階建の建築である。古くからこの街でプロパンガスの供給を行う会社の本社事務所とフリースペースからなる。この会社は、8年ほど前に竣工した「二日市の住宅」のクライアントが代表を務める会社である。
第二次世界大戦後のアメリカで、当時大量生産・大量流通されていた建材によりローコストで効率的、そして複製可能な実験住宅をつくるべく実行されたプロジェクト「ケース・スタディ・ハウス」。中でも特にチャールズ・アンド・レイ・イームズのCSH#8となる「イームズ邸」が、今回のオフィスを計画する上で、クライアントがイメージした建築である。
計画にあたり、1949年に竣工したイームズ邸から約70年を経た現代の、さらに、日本における「ケース・スタディ・ハウス」の価値を再考した。
建築は大きく、①製品的なもの(既製品の組み合わせ) ②製作されたもの(オリジナル)の二つに分けられるが、ほとんどが①と②のグラデーションの中でつくられている。今回の計画では徹底して①の方法を採用した。製品の規格寸法に合わせて、それがぴったりはまるように製作寸法を考えることで、合理的且つローコストな建築を実現している。例えば、今回の構造躯体の寸法を決めるために採用したモジュールの成型セメント板。600mmの規格品がぴったり収まるような寸法を算出した。このような方法を積み上げることで、理論上最小限の予算で最大限の空間の大きさを獲得している。
また、オフィス空間は事業や環境の変化により求められるものが変わるため、将来どう使われるかは計画時にはわからない。そのため、今回の計画で重要視したのが空間の冗長性である。強度が必要な構造躯体は鉄骨でつくり、それ以外は木材でつくることで、吹き抜けの部分にも将来的に床を設置することができる。また、家具は造り付けにせず、鉄骨の柱が側板の役割を担う可動型のスチール棚にし、ダウンライトを埋め込まず現しにするなどにより、将来的な可変性を最大限担保している。