躯体 / skeleton
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福岡市南部の小高い丘の中腹にある住宅のリノベーション。生まれ育った山沿いのエリアに住宅を新築するため、土地を探し続けていたクライアントが決めた場所は、北西に傾斜した山の中腹、市の中央と南をつなぐ曲がりくねった道の根元にある、特徴的な外観をした建物が残る土地であった。鉄骨造3階建てのその建物は、かつて1階が建具製作の工場として利用されていた併用住宅であったが、外壁にはクラックが多く、軒裏の仕上げも剥落し、相当の痛みがあることは容易に予想できる有様で、一般の人が手に入れたいとと思うような建築では決してない。しかしクライアントは「この場所からの風景は何物にも変え難いから」と、かなりの粘り腰で、この場所を手に入れた。この建物を取り壊さずにリノベーションして住まいとしたい、ということがクライアントからの要望だった。
既存の複雑な建築が抱えている情報を把握するため、まず、既存の床材や畳、間仕切りや天井仕上げなど、最小限の範囲を先行して解体することにした。解体してみると、1階の土間は全くフラットではないことや、想定以上に外壁(それに面した室内側の壁下地)が傷んでいることがわかった。そして、工場にあったものや内装、家具を取ってしまうと重石がなくなり、思ったよりも建物が揺れたため、耐震補強が必要であった。延床面積200㎡以上と広く、限られた予算の中でできる最適かつ合理的な一手を考え、プランを成立させる内装間仕切りと、構造を補強するための柱梁の位置の二つを一致させることにした。2Fと3Fの屋上の床を構成している梁に直行するように、各階に3本長手に梁をかける。そしてその3本の梁を1本の柱で支える。これを構造と一体化させると、最小限の部材で耐震補強ができる。
また、建設当初のその時代なりの作り方がなされた鉄骨の躯体や室内仕上げ下地の状態は、今見ても「美しい」と感じられるものであったため、予算の制約もあったが、同時に、それまでここで刻まれてきた時間や、生活の痕跡の美しさを引き継ぎながら、新しい建築をつくりたいと考えた。鉄骨の躯体や室内仕上げ下地を、敢えて現しとし、既存の鉄骨の風景が新しいくらしの背景になるようデザインしている。