Text
1住戸が30平米程の賃貸集合住宅の、外部と内部を含めた全体計画を担当したリノベート。外部は構造躯体を保護するための仕上げと防水の改修、及び、必要最小限の意匠の変更を行っており、内部も計画当初に作成した長期的な建物の改修計画に基づき段階的に工事を進めている。
この計画は「入居者のためのリノベート」というキーワードを大前提に進行した。集合住宅のリノベートには、物件を所有するオーナーや建物の管理者、入居者の仲介者、工事を行う建設会社、そして私たちのように設計を行う建築家など、多くの関係者がそれぞれの価値観を持ってプロジェクトに関わるため、コンセプトを同じ意識で共有するためには、想像以上のコミュニケーションが必要である。大きな方向性から、詳細な仕様に至るまでのすべてを、プロジェクトに関わる全者で決めることが出来たことは、この計画の大きな特徴であったと感じている。
この建物は竣工してから約20年が経過しているのにも関わらず、メンテナンスを繰り返しながら大切に維持されていたため、既存のイメージを壊さずに、最大限に活かすことを前提とした。必要最小限で過不足ない状態をつくりたいと考え、最小限の手入れで暮らしやすい状況をつくることを心掛けながら計画を進めた。
外壁には最小限の補修と新たな塗装を施し、共用部分には利便性を高めるため、駐輪場とエントランス部分を繋ぐ庇の設置や、エントランスホール前の階段の高さ変更を行ったものの、内部の計画では、新しく形をつくることや、何かを加えるとことはほとんどしていない。手に触れる部分の仕上がりや感触、異なる材料が接触する部分のディテールなど、空間の印象に大きな影響を与える質感の積み上げを大切に設計した。