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福岡市の外環状線道路沿い新築した、小さなオフィスビルの計画。この敷地が面する「外環状線道路」は、福岡市都心部の交通渋滞の緩和、およびその周縁に位置する「福岡市南西部」の交通流動性の向上を目的として1973年に計画が策定され、38年の時を経て、2011年春に全線開通した。以前の「福岡市南西部」と呼ばれる地域一帯は、いわゆる「住宅街」であった。元々そこに広がっていた複雑に入り組んだ住宅街に、線状の大きな幹線道路が移植されるような計画であったため、既存の土地や道路が分断されることも少なくなく、この幹線道路沿いには小さな三角形の土地がいくつも現れることになった。今回の計画敷地も、そのようにして生まれた15坪弱、建坪10坪(49.02m2)ほどの三角形の土地のひとつであった。
クライアントからは「自然に囲まれて仕事がしたい」と要望され、 「大量の車両が行き交う道路の脇で、どのようにしてそのような環境を実現するのか」ということが、設計の出発点となった。建築の中に中庭を作ることにしたが、建坪10坪という狭小地であるため、現実的な床面積の広さよりも、体感的な空間の広がりを感じられる空間を目指して、建坪の1/3を占める大きな中庭を作り、そこに面した室内を作ることにした。
1階にはエントランスと屋内駐車場、2階にはミーティングスペース、3階には執務スペースを設けた。2・3階は、南側にある外環状線道路に面した外壁ラインに平行な奥行き3.0Mまでを室内、それより北側を中庭とし、南からの自然光を北側の躯体壁面に反射させ、安定した間接光として室内に導いている。2階ミーティングスペースの中庭に面した窓は、大きな引き戸とした。室内はその奥行きに比して大きな間口で中庭に面しているため、その引き戸を全面開放すると、室内が屋外になったような状態になる。3階の執務スペースからは、中庭に植えた樹木の枝ぶりが見える。建物の頂部は、北側に広がる住宅街へ配慮し、南から北側に向けて傾けた。その結果、3階からは、より多くの空を望むことができるようになった。
また、敷地高低差を考慮して計画した1階駐車場の階高は低く抑えられ、外環状線から2階床仕上げまでのレベル差は2.0M程となっている。街行く人々は、歩道に設けられた大きな窓から、この建物での活動と、その向こうに中庭の風景を見ることができる。
小さな建築の中に大きな外部(中庭)を抱え込むことで、実際の大きさ以上の体感で、建築や環境を感じられるようになるのではないかと考えた。