Text
福岡市南区に計画したフラワーショップの計画。敷地は以前、住宅街の中にあったが、都市高速道路の開通によって、大きな幹線道路に面することになった。敷地内には昔からグラスハウスと大きなクスノキがあり、この地域の人々にとって馴染みの風景の一つでもあった。クライアントは造園業を営んでおり、それまでは植物を育てるのみであったが、新たに植物や植物を手入れするための道具などを販売する場をつくりたいと考え、ショップスペースを併設したワークショップを新築する計画に至った。
クライアントからは当初、前面道路の交通量に負けない視認性や象徴性を持たせるため、高さの高い建物が求められたが、既存のグラスハウスの佇まいと大きなクスノキに魅力を感じていた私たちは、いままでここにあった風景を引き継ぐ、この場所なりの建築を実現したいと考えた。特徴的な建築をつくる以上に、クスノキやグラスハウス自体が象徴性を帯びるようなデザインの方向性を探ることにした。
新しいフラワーショップには、既存のグラスハウスと全く同じ屋根勾配(相似形の/同じ勾配形態)を持った屋根をかけることにした。敷地図を上から見て、建築費から逆算して設定した、建築可能な最大限の屋根サイズを割り出し、その屋根の範囲を敷地図に点線で書き入れることにした。そうすると、敷地形状が前面道路に沿って細長いため、その最大の屋根下面積を確保するために描いた点線は、クスノキを抱え込むような配置となったが、クスノキをかわして建築するのではなく、それ自体を建築の一部として内包した状態を目指すことにした。
枝振りから想像すると、地中にある根の形状や範囲は、建築の基礎構造物と抵触することは最初からわかっていた。根をかわすように独立基礎とすると、上部の構造体をより強固なものにする必要がでてしまい、施設的な建築になるおそれがある。最もシンプルに最小限の細さで建築を計画するには、地中梁で全ての柱脚を繋いだ状態とすることが必須であった。工事の際に丁寧に地面を掘り起こし、正確な根の位置を把握、計測し、設計図にフィードバックし、根をかわすように地中梁を平面的に迂回させるように検討。それでも梁と根が接触してしまう箇所は、地中梁を地中から飛び出させ、いわば『地上梁』のような状態とすることで、根をかわした。
そして、クスノキをかわした位置には、スライドさせることで大きく開放することができる、ガラスで囲い込んだ最小限の室内空間を設けた。ガラスを開け放ち、植物で囲まれたスペースは、もはや半屋外の軒下のスペースのようであり、心地よい風と光を招き入れる。