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福岡市中心部より西に車で30分ほどの別荘地に計画した、鉄骨造平屋建てのこの住宅は、14.0M以上の高低差のある敷地の中腹から上段の崖に向かって、階段を架け渡すような状態で建っている。この計画地は福岡県西部の山裾に開発された別荘地内に位置し、300坪近くあるこの敷地は、敷地内最大高低差が約14.0Mあり、その上下で前面道路に接していた。また、北に向かって傾斜したこの場所からは、遠景に糸島の海を望むことができた。非常に特殊な起伏形状を持つ土地だったため、大規模に開発が行われた別荘地の中で唯一この区画だけが自然の地形のままで残されており、杉の木立が適度な間隔を保ちながら、人の手が加えられていなかった。
クライアントはこの土地の、自然がつくり出した緩やかな起伏に惚れ込み、この場所に終の居場所をつくることを望んでいた。初めてこの場所を訪れたとき、敷地を下から勾配の緩やかな場所を探しながら登っていく地形的な体験がとても楽しいものであったため、ここに建築ができ上がったとしても、その地形を感じることができる体験は残したいと思い、できる限り既存の地形を残しながら、新しい起伏をつくるように計画しようと考えた。
高低差のあるこの特殊な敷地の上に斜面に沿った建築を建てるとなると、通常、地盤基礎工事に莫大なコストが必要になる。平らな場所を選んで垂直に建てる3階建ても計画可能であったが、クライアントの「斜面に沿った建築にしたい」という強い要望を叶えながら、コストを予算内に抑えるために、地盤基礎工事を抜本的に変える設計を計画した。