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クライアントである教会の牧師家族は10数年前から、田畑以外何もなかったこの場所に木造の教会を建設し、この土地に移り住んでいた。数年後、福岡市による区画整理事業が始まり工事が進む中で、想定よりも地盤が軟弱であることが判明したため工事方針が大幅に変更し、立ち退きを余儀なくされた。そのような経緯を経て、一度教会は取り壊され、区画整理が行われ新しくでき上がるまちに再度建築されることとなった。
2週間に1度行われる信者たちとのミーティングを繰り返しながら設計を進めた。「新しく出来上がるまちとどのような関係を築きたいか?」「どのような施設を子供たちに受け継ぎたいか?」など、つくるための材料や手段などではない、建築の在り方についてなどの根源的な問いかけについて、時間をかけて丁寧な議論を重ねた。その結果、「新しいまち並みに対して公民館のように開かれた状態とすること、木の特性を生かした礼拝堂とすること」というコンセプトを、クライアントや信者と共に導き出すことができた。
この教会は木造3階建ての建築である。ファサードは、エンボス加工が施されたポリカーボート板をコ型に曲げ加工したものを木造のフレームに固定したカーテンウォールとなっていて、そのカーテンウォールの裏側で、木の構造体が大きな開口部を十字形に支持している。1階奥北側に配置された幅7.0M×奥行10.0M×高さ4.5Mの礼拝堂は、圧縮力に対してねばり強い木材の特性を生かしマンサード型の木造トラス構造とした。Y字にかけられた木の斜材の材軸方向には、圧縮力のみがかかるようになっている。外にも中にも、十字架以外の装飾的要素は何も無いが、彼らのまちに対する姿勢や建物への配慮が、そのまま意匠となって存在するような状態を設計したいと考えた。