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福岡市を拠点とする企業の調剤薬局の計画。建築の計画地である福岡市早良区と中央区に跨る埋め立てウォーターフロント開発地区「シーサイドももち」は、都市景観形成地区に指定された美しいまち並みと、緑地協定によって整えられた緑豊かな景観を持つ、国際的・複合的な活気溢れる都市空間である。ここには、景観形成地区や地区計画、緑化協定など、さまざまな規制がある。建築への形態規制もあり、屋根形状や、外壁の位置や仕上げ、植栽計画の範囲・樹種に至るまで、いろいろな決まり事があるが、そのおかげで、開発当初より現在まで、長年にわたり良好な住環境と美しいまち並みが維持されてきた。
その一角の住宅街に、調剤薬局を計画することとなった。出発点となったのは、「どのようにしたら『風景』を引き継ぎながら新しく建てることができるだろうか?」ということであった。建築予定地にはもともと、大切に住み継がれてきた雰囲気の良い木造2階建の住宅があり、外部にレンガタイルが貼られていた。隣にある住宅と素材感を共有していて、このふたつの建物が街角の風景をつくっていたため、当初その住宅を残して改修し利用する計画もあったが、様々な構造的な障壁があり、新築する計画となったという経緯がある。
これらの周辺環境や拝見を踏まえて、「視認性の確保 | 医療センターからの視線を受け止める立面計画」、「バリアフリー | 高低差なく直進してアプローチできる、スムーズで明快な動線計画」、「開放的な景観 | 地域に対して開かれた配置・立面計画」、「安心感 | 外部から室内の機能が一望できるゾーニング計画」、「一体感 | まち並みを形成する形状や素材感を引き込んだ素材計画」という5つの指針を設定し、それに基づいて計画を始めた。
既存の建築が育んできた風景を引き継ぎ、地域に開かれた場をつくるまち並みをつくるため、周辺環境の丁寧な観察からスタートした。当初から存在する住宅群は、地区計画により揃った外壁ラインや軒高さや屋根勾配、一体感ある色調、同じ御影石を使用した石垣、樹種が限定され揃えられた植栽計画など、昔から引き継がれてきたまちのルールや、質感があった。その培われてきた文脈を、私たちなりに読み替えて引き継ぐこととした。
新しく建築する建物の外壁ライン、軒の高さ、屋根の勾配を、既存のまち並みに揃え、敷地内に植える植物は緑地協定によって推奨された樹種にて計画。工事のために一旦撤去した石垣は大切に保存し、工事完了後に、改めて計画に合わせて再配置することにした。また、元々そこにあったタイル張りの街角の風景を室内へと引き込むこととし、調剤室前の待合スペースをタイル張りにして、その風景が植物と木製でつくった大開口部から見通すことができるようにした。建築の外観は、周辺の建物の色調から抽出したできるだけシンプルな色、素材、ディティールとして、建築の印象を抽象化・背景化することで、元々そこにあった石垣や植物、室内のレンガタイル張りのインテリアの風景など、この地域が引き継いできた風景が、より強調されるように計画した。