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クライアントである家族が購入した土地は、私鉄とJRの線路に挟まれた一帯にある、比較的高さのあるものも建築可能な住宅地の中にあった。敷地はその4周を建物で囲まれた、いわゆる「旗竿敷地」。幅3.0M程度の細長い道の奥にある整形の敷地は、東・西・南側を2階建ての住宅に、北側を9階建ての集合住宅に囲まれており、開放的な住宅をつくるといっても、窓の向こうに広がる景色は人工的な建物ばかりであった。ここに、30代後半のご主人と小学生低学年の息子さん2人の家族3人で暮らすための住宅が求められた。
この家族が暮らす住宅には、ほぼ毎週末(といっても過言ではないほど)友人とその家族が訪れる。多いときには大人と子供をあわせて40人を超える人たちが集まることもあり、それが、この家族の日常である。
この住宅は、ひとつの大きな窓を持つ住宅である。東・西・北側に対しては通風・換気のための窓だけを設けた閉じた状態とし、南側だけがテラスの向こうに続く庭に向かって、高さ2.0M×幅8.0Mの窓を通して開かれている。その大きな窓を全面開放することで、住宅の内外部を一続きの空間として利用することが出来る。1階のリビング・ダイニング・キッチンと、2階の個室群(主寝室や子供室、和室など)は南側に配置され、そのそれぞれが南側の吹き抜けを介して繋がっており、北側に一列に並べられた水廻りと収納が、その居室群のプライバシーを北側からの視線から守っている。通常、今回のように内部を外部化して住宅と庭とを一体的に利用しようと試みる場合、幅だけでなく高さも高い(天井高さと同じ程度とするなど)窓を設けることもあるが、この住宅では、その高さを敢えて2.0Mに抑えている。高さの高い窓を設けたところで、その先に見える風景は、隣の家の裏側である。また、庭を取り囲むように隣地境界線に沿って設けた壁面と、門扉の高さを全て2.0Mで統一することで、門扉を閉めた際には、敷地の外からの視線が全くと言っていいほど気にならない状態となっている。