山鹿市の伝統工芸品の紙細工「灯篭」がモチーフの、折り紙のように折り曲げられた屋根の下では、どこに立っても屋根の開けた目線の先に象徴的な山を美しく望むことができる。
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熊本県山鹿市菊鹿では、平成10年から遊休農地の有効活用などを目的に、ワイン用ブドウの栽培が始まった。平成21年には菊鹿ブランドの白ワインが世界的に評価され、市の重要な地域資源のひとつとして位置づけられるようになったことから、官民共同で開発を行う「菊鹿ワイナリー構想」が持ち上がった。
この建築がたつ場所は、北から南に向かって緩やかに傾斜した台地である。設計を始めるにあたり古地図の履歴を調べてみると、人工的に切り開かれた台地ではなく、自然が作り出した地形であることがわかった。また、敷地北側には地域の象徴ともいえる山々が、緩やかな稜線を描いている風景を臨むことができた。
「アイラリッジ」は、幅10M×長さ約100Mの、緩やかに折れ曲りながら建つ木造平屋建ての建築である。地形に沿って建っているため、北から南に向かって緩やかに傾斜している。木造の構造部材には全て山鹿産のヒノキ材を使用。約1,000㎡の屋根下空間のうちの約1/3が室内空間で、「トイレ・倉庫棟」「販売棟」「交流棟」の3つに分かれており、約700㎡にもおおよぶ半屋外の軒下空間によって繋がっている。
私たちは、敷地中央に配置された建築の屋根を、市の伝統工芸品の紙細工「灯篭」をモチーフとし、折り紙のように折ることにした。緩やかに折り曲げられた屋根の稜線(棟梁のライン)は、その場所から見える象徴的な山々の山頂を指し示し、敷地内の場に向かって開かれている。地形や風景からあぶり出されたような、この場所でしか存在し得ない建築の造形を描くことで、ここから見える風景や敷地全体との関係をつなぎ直し、多様な場の連続をつくることができるのではないかと考えた。