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福岡市民にとって馴染みの『屋台』。デザインを考えるために、その定義や制約条件を確認してみるとなかなか興味深い。福岡市による『屋台』の定義とは、まず第一に『①道路運送車両法に規定する軽車両であること』『②軽車両に飲食店営業のための設備を備え付けたもの』ということらしい。つまり、まず公道を走ることができる『軽車両』であることが大前提であるということが市の屋台基本条例に定義されている。それに加え、『③展開した時に間口3m×奥行き2.5m以内であること』『④屋根は組立など必要とせず本体と一体的な構造であること』ということが具体的な形態制限だった。また、バイクや車、人力で牽引して運ぶ通常の屋台とは違い、ワゴン車に屋台本体と、付帯設備や商材の全てを積み込み、移動できるデザインとすること』が、クライアントからのリクエストだった。このようにして、①~⑤を満たす、『ワゴン車に屋台(軽車両)と付帯設備を積み込み、かつ、荷台から積み下ろした屋台から3m×2.5mの大きさの屋根が展開する』という、未知の構造体をデザインするとことになった。
屋根は、8個の特殊な歯車と4本のレールを使い、ハンドルを回して昇降可能とし、9分割にしたパーツがパタパタと展開する構造とした。店で必要な棚やシンク、コンロなどの機能は、屋根と床に取り付けて自立する壁面に内蔵した。厚さ30mm程度の4つの壁面には、機能に応じてデザインした棚板が仕込まれており、ワンタッチで折り畳むことができる。まちに新しいにぎわいの場をつくることを目指し、コーヒーと蒸留酒だけを提供する新しいスタイルの店であるため、見慣れた『屋台』が持つ形態的なボキャブラリーを、『家形の傾斜した屋根→フラットな屋根/茶色の木材→明るい色調の木材/赤い暖簾→青いチェア/提灯や電球照明→ライン型の照明/地面に座る→床の上に座る… 』というように読み替え整理することで、既存の屋台に最大限の敬意を払いつつ、まちに『新しさ』を忍ばせることができるのではないかと考えた。