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福岡市南区に計画した、古い木造平屋建て邸宅のリノベーション計画である。もともとこの敷地には、昭和初期に建設された木造平屋建ての母屋があり、他にも蔵や茶室など、趣深い建築が存在している。どの建築も十分に手入れされており、状態が良いものであった。
躯体を活かすにあたり現地調査を行うと、建築当初の襖や障子がなんの支障もなく動くほどに、保存状態が良かった。また、部分解体時に発見した柱に刻まれていた名前から、腕の良い京都の職人が手掛けた建築であったことも分かった。「外観はできるだけそのままに、現在の生活像に対応した住居にしたい」というクライアントの要望を実現し、リノベーション後も当時の職人の仕事の跡が感じらえるよう、日本家屋の持つ良さを引き継ぎながら、現代の暮らしに寄り添うデザインで欠点をフォローすることを目指し、設計を始めた。
古い木造建築に暮らすにあったって問題になるのは、適切な雨仕舞いと断熱性能、構造的な耐力の確保である。まず、工事に先立ち、屋根瓦を一枚一枚丁寧にはぎ取り、その下地の土を全て撤去し、新たな断熱層と防水層を設け、剥ぎ取った瓦を元どおりに乗せ直した。古い木造住宅で不足していた適切な断熱性能と雨仕舞いを確保しつつ、屋根の荷重を軽減することで、これまでのたたずまいを残しながら、耐震性能の向上を実現させている。また、リビングの天井で存在感を放っている梁は、既存のものを現在の職人が一本ずつワイヤーブラシで丁寧に磨き上げたものである。
建物の中と庭との間の環境を綿密にデザインすることで、住まいの自由度を広げることを目指した。庭側の縁側は奥行きの狭い濡れ縁にし、大きな開口部を設けることで、窓を開けた瞬間にリビングが外になる。また、半屋外の大きな軒下空間には、外を感じながらゆったりと自由に過ごせる広縁を設けている。
リビングとキッチンの天井には、壁面にリバウンドして拡散した外光が室内に届くように設計したトップライトを設けている。このトップライトからの柔らかな自然光が、最小限の照明での生活を実現し、暗くなりがちな日本家屋の問題を解決すると同時に、日々の暮らしの中に、時間とともに変化する美しい陰影を生み出している。