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農業ハウス用ジョイント部材メーカーの本社事務所・倉庫の移転新築計画。20年ほど前にクライアントがこの敷地を取得し、本社事務所と工場(一部倉庫部分を含む)を建築したが、事業規模拡大に応じて段階的に倉庫が建築されたため、事務所棟と工場棟は、大小様々な倉庫建築によって囲まれるように存在していた。今回、更なる事業規模拡大に伴い、生産拠点となる工場棟のみ残し、新社屋と倉庫棟を同敷地内に移転・新築することとなった。
基本設計の段階で、計画の方向性や設計の論点を明確にするため、社員の方々と設計チームとの共同でリサーチとワークショップを開催した。意見を述べやすい環境をつくるため、社長や経営陣には参加を遠慮してもらうことにし、「あなたにとっての働きやすさとは」というテーマでリサーチを行い、既存の職場の「誇れる点」と「残念におもう点」を把握・整理した。
ワークショップの結果導き出された「働きやすい環境」は、意外にも広さや仕様などの数値化可能な「スペック」ではなく、「会社全体、部署間の連携」、「人と人との関係性をいかにつくるか」という切実なものであった。聞くと、管理部門のメンバーが働く事務所と、実際のものづくりに携わるスタッフのいる工場、商品発送メンバーのいる倉庫、それぞれが独立して建っており、お互いが何をしているのかわからないという。会社をよりよくするために、連携しやすい職場づくりが必要だ、というのが社員の方々の総意であった。
社員同士の連携をスムーズにするには、事務所・工場・倉庫を一体化するのがベストであるが、建築基準法及び消防法上の制約が大きく、全てを一つにはできないため、屋外空間でつなぐことにした。それぞれの建築に大きく庇をかけた大きな軒下空間をつくることにより、天候に左右されることなく建物間の移動が可能になった。また、隣接する建物の窓が向い合せになるようになっておい、隣の建物で働くスタッフの様子がなんとなくわかるようになっている。社員同士が行き来しやすく、お互いの仕事の気配を察しやすい状況をつくることが、連携しやすい職場環境につながると考えた。
新事務所の素材には、既成の工業製品を使用している。クライアントの会社は、農業ハウス用ジョイント部材の世界最大級の品ぞろえを誇る、ものづくりの会社である。そのため、工業製品をうまく利用して作ることで、この会社らしさを表現できると考えた。外部のモジュールは、規格900mm弱のガルバリウム鋼板(大波加工)とし、内部には既製品のコンクリートブロック、フレキシブルボード、木毛セメント板など、通常下地材としてしか使われない工業製品を、内装の仕上げ材として使用。安価に手に入る工業製品を、整然と配列して見せることで美しさを表現し、インテリアとして用いている。
事務所は敷地の中で最も良い眺望を確保でき、日当たりの良い位置に、倉庫棟は敷地の中で最も地盤が安定している崖側の奥に計画した。